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■子どもたちのアートワークス(12)

◆アートマイル中越プロジェクト・Yバージョン(2)

 月曜日の5時間目。黒板の横にはスクリーン。その前にはプロジェクターとパソコン。そして34個の椅子。椅子に座っているのは6年生の子どもたち。机は教室の後ろに寄せてある。

c0052304_19291174.jpg
 黒板の前で、担任である私がまず言う。
 「今日の図工は絵の鑑賞です。4枚の絵を見ます。それらの絵を鑑賞して、気づいたり感じたりしたことを出し合いましょう。今日の勉強で、少しでも絵を見る楽しさや絵を描くよさが分かればいいね。では、スクリーンを見てください。」
 マウスをクリックした。

子どもたちの目の前に1枚目の画像が現れた。広島の子どもたちが描いた巨大壁画である。(http://www.kids-guernica.org/JapanesePage/Workshop-JP/No03Japan-JP.html)
 『どんなものが見えますか?』
 『どんな色が使ってありますか?』
 『どんな音や声が聞こえてきますか?』
 これらの発問を順序よく行っていくことで、子どもたちは絵をしっかり見つめるようになる。そしてイマジネーションが広がっていく。
(上の発問は、鑑賞時によく使う。現在、熊本の情報教育研究会で一緒に活動中の前田康裕氏の過去の実践から、活用させていただいている。鑑賞経験の少ない小学生にとっては、考えたり答えたりしやすい問いである)
 「空を飛んでいる折り鶴」「にこにこ顔の太陽」「草や木が生えています」
「水色」「うすい緑です」「ぱたぱた」「わ~い」「空は気持ちいいなあ」
c0052304_19211741.jpg


 『この絵はどんな人が何を思って描いたのでしょう?』
 この発問の頃になると、「この絵、ここにあるよ。ほら・・」と教科書の裏表紙に目をやったり、「あ、これは原爆ドームだ。はだしのゲンで見たよ。」とつぶやいたりする姿が見られるようになる。2週間前に長崎修学旅行に行った子どもたちなので、平和への願いが表されていることにも気づいた。
 最後に私が説明を加えた。
「これはね、6年前に、被爆地ヒロシマで、爆心地に近い4つの小学校の子どもたちが集まって描いたんだよ。2年生から6年生までの41名で。」
 
 



2枚目に出したのは「YUGEキッズゲルニカ」の画像。
 (http://www.kids-guernica.org/JapanesePage/Workshop-JP/No84Japan-JP.html)
 「あ~見たことがある。」「先生が前に見せてくれた・・・」
子どもたちはすぐに反応した。私が
 「この絵はどんな人たちが何を思って描いたのだったかな?」
さりげなく問うと、数名が手を挙げて発表した。
 「たしか熊本の小学生が、修学旅行で原爆のことを勉強したあとに、平和への願いをたくさんの人に伝えたくて描いたものだと思います。」「先生が前にいた学校の子どもたちが描いたキッズゲルニカです。」


よく覚えていた。そう、彼らには昨年の11月に体育館で実物を見せたのだ。(8月から11月までの3ヶ月間だけ帰国していた「YUGEキッズゲルニカ」を本校の子供たちには鑑賞学習で展示したことがあった。)
この絵は、YUGE小学校の66名の6年生が、地球の平和や自分たちの未来の平和を願って、世界に発信するため描いたのだということを、あらためて確認した。そして、さらに発問した。
c0052304_19352753.jpg

『これを描いたYUGE小学校の6年生は、そのような気持ちを、メッセージとして世界中へ伝えるために、どんな工夫をしてえがいたのだろう?』
 「ファットマンを小さな人が止めている。原爆を落とさせない気持ち。」「平和祈念像の指先から虹が出ている。虹は雨のあとに現れるきれいなもの。」「鳩が飛んでいる。鳩は平和のしょうちょう。」「世界のいろんな人を描いてある。世界中の人が仲良くなるように」「全体の色が左から右に行くにかけて暗い色から明るい色になっている。」
 半年前には、平和祈念像をキン肉マンの銅像と言って笑っていた子どもたちだ(あの時はあえてそのことを否定はしなかった)。今、明らかに見る目が変わっていた。    

 そして3枚目がスクリーンに。被災地新潟の十日町の子どもたちが描いた巨大絵画である。(http://www.ako-info.jp/sherry/artmile/toukamachi.html)
c0052304_19171177.jpg
 「あれ?」
 子どもたちの表情が少し変化した。今までの絵と何かが違うと感じたのだろう。
「何を伝えたい絵なのだろうね。」
 私が軽く訊ねたが、子どもたちは考え込んでいる様子。そこで、1枚目の時と同じように答えやすい発問をする。
『どんなものが描かれていますか?』
「満月」「山。富士山かなあ」「羽を広げた鳩」「鳩じゃなくて鶴だよ」「夕
焼け空」・・

 1枚目や2枚目ほどたくさんは出ない。そう、いたってシンプルな絵なのだ。しかしインパクトは強い。
 やがて、ある子が「ガ」と言った。
「ガ?え??」
私は眉をひそめた。その子は平然と答える。
「そう、ガ」
「あ、そうだ、ガだ、ガがいる。」
何人もの子どもが言い出す
「はい、はーい、ン、もあります。」
「はーい、バ もあるよ。」
絵の中にある文字を指して言っていたのだ。結局そんなやりとりで
「が」「ん」「ば」「ろ」「う」「十」「日」「町」「小」「学」「校」が加わった。そこまで終わるとある子が質問した。
「十日町小学校ってどこですか?」
「どこかなあ?」「熊本?」「広島じゃない?」「長崎だよ、きっと。」
意外なところから教室が盛り上がってきた。

c0052304_19381594.jpg
 
ここで私は、用意していた日本地図のパネル(広用紙1枚ぐらいの大きさ)を取り出した。
「熊本じゃないよ。九州じゃなくてね、このあたりにあるんだよ。」
と、本州の真ん中あたりを丸く囲んだ。じっと目をこらして、地図を見つめる子どもたちの中で、小さくつぶやく声が聞こえた。
「新潟?」
後ろに座っている子だった。そこから小さな文字が見えたのか、知っていたのか、不明だが。
「そう、新潟だよ。中越地方。よく分かったねえ。」
即座に私は言った。すると、1番前に座ってる子が指さして叫んだ。
「あ、あったあった、十日町!新潟県!」
 
 『新潟の子どもたちは、何を思ってこの絵を描いたのだろう』
 この問いの答えを想像するのには、時間はかからなかった。道徳の時間に、阪神大震災や中越地震を題材にした授業を行っていたこともある。被災地の子どもたちが心を込めて描いた絵であることを感じ取っていた。また、十日町小の全校の子どもたちの制作にまつわるエピソードやコメントを紹介すると、再び、絵を見てじっと考えていた。

 「さあ、ではいよいよ4枚目の絵です。」
 子どもたちの目がスクリーンに釘付けになっている。マウスをクリックした。やがて現れた画像を見た子どもたちは、首をかしげた。
「あれ~?」「ただの長方形」「何もない」
 かまわず私は発問する。
 『どんなものが描かれていますか?誰が描いたと思いますか?』
 子どもたちはあきれたように答える。
 「真っ白」「何も描いてありません。」「雪かな」「分からない」
 だが、微笑んでうなずいている顔が幾つか見えた。勘のいい子どもたちらしい。声に出していなくても、考えている事は予想できた。
 私は続けて言った。
 「実はこういう事です。」
 クリックすると、白枠の絵の下に文字が現れた。
“熊本のKASUGA小学校6年生が、新潟の子どもたちへ贈る励ましメッセージとして、みんなで描く大型共同絵画”
微笑んでいた子たちを除いて、ほとんどの子が驚いた表情を見せた。
 「つまり、この絵を描くのは君たちです。」
私の言い切った言葉に対し、
 「え~」「お~」「うんうん」「やっぱり」
 様々なつぶやきが聞こえた。

 さらにたたみかけるように言った。
 「ここに君たちが描く布があります。」
そして、布を取り出し、あっと言う間に黒板前面につり下げた。今度は一様に「お~」「でかいなあ」「こんなのに描くと?」と驚きの声があがった。
 これは、アートマイルサイズ(約1.5m×3.5m)なので、昨年子どもたちが目にしたキッズゲルニカの約四分の一の大きさ。それでも、これに自分たちが描くと知って「大きい!」と感じたらしい。

c0052304_1925368.jpg

 「先日みんなに描いてみるかい?って訊ねたでしょう。あの絵だよ。」
と言いながら、この絵を描くようになった経緯を子どもたちに話した。5年生の時から自分たちがやってきたことがつながっていることを子どもたちは知った。もう後ろ向きになる子はいない、と私は子どもたちを信じた。
 表情には、不安と期待が入り交じっていたが、この時間の自己評価や感想を見る限りは、それがまちがいないと確信した。

 自己評価の中に次の2項目があった。
 『絵を見る勉強が楽しくできましたか?』」
 『いっしょうけんめい絵を描こうと思いましたか?』
 全員が「まあまあできた(思った)」「とてもできた(思った)」 という自己評価で(4段階の3あるいは4)、関心・意欲の高まった授業といえた。

 また、以前子どもたちに訊ねたとき、「描きたくない」と答えた児童が二人いた。そのうちの一児童は、次のような簡単な感想を書いていた。
 ・絵を見たりするのは、ぼくは好きじゃなかったけど、今日は4回も発表した。新潟の人たちがかいた絵は、シンプルだったけど、よく気持ちが伝わってきた。ぼくは絵をかくのはいやだと思ってたけど、ちゃんとかく。そしてそれがはげましになったらいい。

 次時は、どういう絵を描いたらいいのか、各自のアイデアスケッチから、みんなで検討していくことになっている。         (つづく)
by saibikan | 2005-07-10 19:41 | アートマイルプロジェクト | Trackback | Comments(0)
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