カテゴリ:学級づくり( 185 )

成功させたい発表会形式の授業参観

授業参観は、基本的に
「教師が演出する場で、児童の学びの姿を親に見せる場」
であると、私は思っている。だから、教室など学習の場において、子どもが関心の高まりを見せ、課題を持ち、それに向かって考えたり悩む子どもの姿を見せたい。そして新たな発見や達成という場があり、1時間の中で一生懸命に取り組んだり、学びを通して変容したりする姿に、親も喜びを感じて欲しいと思っている。子どもがそんな姿を見せられなかったら、それは教師である自分の責任。学び直しをしなければならない。

そんなねらいの授業参観であっても、年に1回ぐらいは「発表会形式の場」を持ってくることがある。それは、すべての子どもが、短い時間でも、確実に主役的な表現者となれるからである。とはいっても、事前の取り組みなしに発表会は行えない。行事ではない授業で発表会形式を行うには、学習発表会や運動会、音楽会とは異なる工夫が必要となる。

そんな思いを「フォレスタSELECTION vo.3」(株式会社SPRIX)では、表記のタイトルで記事として書かせていただいた。そこでは、以下のような3つの工夫を述べている。

1 親にとっても子どもたちにとっても興味深いテーマにする。
2 一人一人が主役になるようスタイルを工夫する。
3 親の期待と満足感を高める事前のお知らせと、当日のちょっとした手立てを行う。

具体的には、読者の方と面と向かって話せれば最良の道だが、とりあえず本を買って読んでもらえれば分かるだろう。わずか2ページの記事。一応、一生懸命考えて書いた内容。できればこのブログでも、いずれ、かいつまんで伝えたいと思う。
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なぜ、今日、この記事を書いたか?
先日、実際に授業参観で発表会形式を行ったからである。
しかも書いてある内容とはまた違った工夫を行った。
発表会形式でも、工夫をすれば面白くなる。

逆に、何の工夫のない、子ども任せの、相手に伝える気持ちが見えない発表会は、すべきではない。

by saibikan | 2019-02-05 21:13 | 学級づくり | Trackback | Comments(0)

「ぼくの心を分かって〜絵を描くのは嫌いだ」おわりに

「ぼくの心を分かって〜絵を描くのは嫌いだ〜」最終回です

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おわりに
 リョウタは,実際にいる特定の子どもではありません。これまで私が出会った子どもたちの様々な特徴を併せ持った一人です。でも、こんな子どもって先生方の身近にいませんか?

 登場する教師たちは、実は、私自身のプラス面とマイナス面を強調して描いた教師像でもあります。思い通りに動かない子どもにいらいらして、つい子どもにあたってしまう。たくさんの子どもがいる学級を受け持って、個人にかまっていられないから、知らぬ間に見捨ててしまう。私にはそんな過去があったと強く反省しています。だからこそ、教職年数を多く経験した今だからこそ、目の前の子どもたち一人一人に目を向けて全力を尽くして、よりよく子どもを育てたいと考えるようになりました。

 もちろん子どもに対して厳しさも必要です。子どもの言い分を全部聞き入れることがよいとは思いません。ただ言えるのは、子どもの表面だけを見るのでなく、言葉や行動から心の中を推測して子どもにかかわることが、とても重要だという事です。「ぼくの心をわかって」と心の中で叫んでいる子どもの思いに気付きましょう。そして、特性ある子どもに対する言葉かけを変え、子どもの発言や行動の裏にある思いや考えに目を向けてみませんか?そこから子どもに学びの意欲を持たせる方法も生まれ、様々な言葉かけや手立てによって、誰もが安心して学習に臨める学級となるでしょう。さらに互いの作品を見合うような学習を取り入れることで、集団の中に学びの力と豊かな心が育ち、一人一人に自尊感情も高まるに違いありません。

 リョウタのような子どもが、「絵を描くことが好きだ!」となるためには、以上のようなことを踏まえながら、教師がまず、絵画表現や鑑賞に対する意識を変えることです。表現する楽しさを味わわせること、表したいものへの思いを引き出すことを大事にしましょう。そして「上手に」を意識させるのでなく「自分なりに考えて」「工夫して」を大切にして表現するような授業づくりを進めましょう。作品を見るときは、教師も子どもも、作者の思いがどのように表現されているか、どのように工夫されているかを考え、その良さを認め合うようにすることです。そのような手法や考え方は、他の教科でも生かせます。 

 社会や保護者、学校の状況がずいぶん変わってきて、教師もやりづらい時代になったことは実感しています。もちろん子どもの行動や心も変わってきました。様々な子どもがいて、個のニーズに対応するためには、教育環境も改善されなくてはならないし、私たち教師の考え方や取り組みも変わって行かなくてはなりません。ただし、どんな状況であれ、目の前の子どもを一人も見捨てる事なく、育てることだけは、私達の使命であるといえるでしょう。そのためには、私たち教師も学び続けなくてはなりません。仲間や社会、そして子どもの心から。

               2017.3.3    Kan

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最後まで読んでくださりありがとうございました。




by saibikan | 2018-12-31 09:47 | 学級づくり | Trackback | Comments(0)

「ぼくの心を分かって〜絵を描くのは嫌いだ〜」5Point

「ぼくの心を分かって〜絵を描くのは嫌いだ〜」今回は9回目。
Part5の「Point」です。
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Point5ー互いの作品を見合う事の大切さー

 Point5ー互いの作品を見合う事の大切さー

 クラスの多くの子どもたちが、自分の作品を人に見られる事をいやがる場合があります。その原因として次のようなことが考えられます。

・学級内に他者を冷やかしたり、からかったりする傾向がある。 

・「作品は上手なことがよい」というという意識がある。

・掲示する作品が大事にされていない。

 人は表現した作品が他者に認められると、表現した喜びも倍増します。子どもならなおさらでしょう。図画工作の学習の中で、人によって様々な表現があることやそれぞれの人なりの工夫があることをよさと認め、ほめ合う鑑賞学習を充実させましょう。そして、その褒め言葉も作品とともに掲示するなど視覚化しましょう。このような学習を進めると、子どもは表現することが楽しくなり、創造的な表現力が高まります。そして何より、学級内に穏やかな人間関係を生み、雰囲気も良くなります。褒められた経験が少ない子どもにとって自尊感情が高まる活動でもあります。

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*物語の各章ごとに、解説的なものを入れました。これは、図画工作の授業をする教師向けです。ただし、保護者も含めた大人全体へ、子どもの造形活動や作品の理解という視点で考えていただきたい点も意識して書いています。


*写真は、過去の別の題材授業の掲示と鑑賞のシーンです。この物語の内容とは関係ありません。

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by saibikan | 2018-12-30 21:20 | 学級づくり | Trackback | Comments(0)

ぼくの心を分かって〜絵を描くのは嫌いだ〜5

「ぼくの心を分かって〜絵を描くのは嫌いだ〜」今回は8回目。Part5です。

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5 ほめあい、認め合う鑑賞っていいな

  全員の絵が出来上がって黒板に貼られた。

「いいなあ。どの絵もいい」

 南田先生は、ぼくたちに半分背を向けて、つぶやいた。そして

「みんな一生懸命描いたね。どの木にも心がこもっているよ」

笑顔を見せてうれしそうにそう言った。

(どの絵もいい。心がこもっている)

ぼくは南田先生の言葉をくり返しながら、みんなの絵を見ていた。

(たしかに形も色も一人一人違うけど、同じエノキだ。面白いな。そうかあ、人によって見え方が違うのかもしれない。ぼくは葉っぱを一生懸命描いたけど、マイちゃんは枝がだんだん細くなっているのが特徴。タケオ君の絵は、空の色がきれいで木の色がこくて目立っている)

 先生はそんなぼくの心の言葉が聞こえたかのように、こう言った。

「どの人も、工夫している。一人一人、木の見え方が違うし、表し方が違う。大事なのは、自分なりに工夫できたかどうかってことだよ」

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 そしてぼくたちは、先生から配られた作品カードに、自分の絵に対する思いを書いた。ぼくは何と書いていいか最初はわからなかったけど、先生が

「リョウタ君にとって、エノキの根っこのあの場所はどんな場所?」

と訊いてきたので

「落ち着く場所」

と答えた。すると、いらいらしてエノキの根っこに座った時、葉っぱを眺めていたらその隙間から、光が見えてきれいだったことを思い出した。自分の絵の葉っぱが、その場面と一瞬重なった。

 さらに先生は、絵をみんなに戻すと、付箋紙を3枚ずつみんなに配った。そして絵の下に置くように言われた。

「これから、絵の鑑賞会をします。友達の絵を見て、いいなあと思った事を付箋紙に書いてください」

 ぼくはマイちゃんと席を交代した。マイちゃんの絵をみて、

「木が動いて見える。にぎやかです」

と書いた。本当はいっぱい思ったけど、うまく文章に書けなかった。「リョウタくんの葉っぱもにぎやかよね。形や色がいろいろあって。本当の木ってさあ、確かに11枚違うもんね」

マイちゃんの言葉に、ぼくはうれしくなって

「マイちゃんの絵はね、えだがすごいよ。くねくねしてたり、先が細くなってたり、ぼくこんなに描けないもん」

 マイちゃんも嬉しそうだった。


 その後また席を立って、他の人の絵も見に行った。それぞれの木を見るのはとても楽しかった。途中で、ハル君が、ぼくの絵の前で何か言いながら、別の友達とへらへら笑っている姿が見えた。その姿を見て、いらっとした。きっとぼくの絵を馬鹿にしているに違いないと思った。いつもならぼくは机をドンドンたたくところだけど、なぜだか今日は、みんなの絵を見ることを続けた。

 最後に自分の席へ戻るとぼくの絵の下の付箋紙に新しい言葉が書き加えられているのを発見した。


・葉っぱの色が、いろいろ出ていますね。がんばって描いたのですね。

・木の根っこが広がって、力強いです。リョウ君の場所でしょう?


 うれしかった。ほめてもらった。絵の中にぼくの心を見付けてもらった。絵を描いてこんな気持ちになったのは初めてだった。(終)


***************(Point5は次号へ)*******



by saibikan | 2018-12-30 08:48 | 学級づくり | Trackback | Comments(0)

ぼくの心を分かって〜絵を描くのは嫌いだ〜4

「ぼくの心を分かって〜絵を描くのは嫌いだ〜」
これは1年前に電子図書として出版した書籍です。(無料)
全29ページの短編。
10回連載(この記事について1日1〜2回)で投稿します。
今回は7回目。Part4です。

ただし写真は、ブログ用に、記事に合うものを付け加えています。

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4 自分色を作ることが大事

 次の図工があった日、ぼくは学校を休んでしまった。木に色を塗る日だったのに、朝から具合が悪くなった。お母さんは

「やっぱり図工があるからかねえ」

と言った。でも違う。だってぼくは色を塗るのをちょっと楽しみにしていたから。じゃあなぜまたお腹が痛くなったのかと言われてもぼくには分からない。ただみんなや先生が、

「また図工の日に休んで・・・」

と言うかもしれないかと思った時の方が、胃が痛んだ。


 夕方、友達が連絡帳を届けてくれた。そのとき一緒にメッセージカードが挟んであった。そこには、先生と同じ班の友達からのひとことが書いてあった。

・リョウタ君がいないとさびしいです。早く来てね。(アイ)

・先生が分かりやすい色のぬり方のビデオを見せてくれたよ。(サヤ)

・今日の図工は、みんな楽しく色をぬったよ。おもしろかった。あと1時間また色ぬりがあります。ということでリョウタ君もセーフ!(ケン)

・リョウタ君元気?よくなったら学校に来てね。待っているよ。(南田)


 友達からの言葉は何となく嬉しい。そして、ああ、やっぱり学校に行けばよかったなあ、とカードを見ながら、ぼくは思った。

 色塗りの最後の図工の日がやって来た。みんなの絵を見てびっくりした。ほとんどの人が半分以上塗っていたからだ。それもみんな違う感じの色を出していた。
「先生、みんながビデオを見たって・・・」

「リョウタ君も見るかい?」

「見る!」

 先生は、タブレットを持って来てぼくの机に置いた。目の前で映像が流れた。タイトルは「水彩絵の具の使い方」だ。

「いいなあ、リョウタ君」

 友達が騒ぐ。先生は、ぼくのためにこれを用意したの?

「みんなが見たビデオを一人で見るためのものだ。これからタブレットはこんな使い方もするんだよ。さ、ほかのみんなは自分の絵を仕上げよう」

 先生はそう言うと、色ぬりをしているみんなの席の近くを回りながら、一人一人を褒めまくっていた。ぼくはたった一人で、タブレットの中の映像を見た。

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 ビデオはとても分かりやすかった。だって、パレットの使い方や筆の洗い方など、これまで頭の中でごちゃごちゃしていたのが、とても整理されていて分かったから。でも、みんなと一緒に見たかったな。3分ほどで映像は終了。その後は実際に先生が近くで塗り方を教えてくれた。

 みんなよりも遅れていたけど、ぼくはがんばって茶色と緑と黄色をたくさん使って、少しずつ色を変えながら塗った。この前、葉っぱが少ないって先生から言われたから、たくさん葉っぱを筆で描いた。いつのまにかぼくの木は、この前よりずいぶん大きくなって,鮮やかだった。

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 先生が色を塗るとき、いろいろなやり方を教えてくれたけど、先生が言った言葉で心に残った言葉がある。

「上手に描こうなんて思わなくていい。自分色を作ることが大事なんだ。そして自分色を大切にするんだ」

 そんな言葉を聞いた事がなかった。これまでの図工では「上手に描くには」「上手に描こう」って言われ続けて来た。でも、南田先生は、違った。自分色を作ることが大事だって何度も言った。南田先生はやっぱり何か違うなあと、ぼくは思った。

 ぼくは葉っぱの色をたくさん作っている中で、黄緑よりちょっと明るい緑色がお気に入りになった。その色をたくさん使った。丁寧に大切に塗った。この柔らかい明るい色が自分色なんだろうと思った。

 最後はみんなと同じように仕上がってほっとした。たった1本の木絵だったけど絵を描くことでこんなに満足したことは初めてだった。

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Point4ー安心して学習に臨める言葉掛けと手立てー

 教師は、子どもの絵を見て「あなたは上手だね」「みんな上手に描きましょう」と声をかけがちです。実はそれが、ある子どもたちにとっては、「自分は下手だ」という劣等感を植え付けてしまうのです。大切なのは、技能的な優劣でなく、もっと子どもなりの工夫や発想・構想を、教師が見つけ褒めることです。そのためにも、絵を描き始める時、「自分色を作ろう。自分色を大切にしよう。人と違っていいんだよ。」という声かけは、効果的です。その言葉で、子どもは絵を描くときに安心感を持ちます。そしてやがては、創造的技能の高まりにつながります。

 また子どもは、学校を休んでしまうと、その分授業を受けていないので子どもは不安になります。いつのまにか先に進んでしまった、もう分からない、とパニックにさえなる子どももいます。教師は、授業の最初に復習を入れたり、個別の指導時間をとったりしますが、このようにタブレットをうまく活用する方法もあるのです。支援の必要な子どもにとって、ICTは強い味方です。

****************(Part5に続く)



by saibikan | 2018-12-29 06:30 | 学級づくり | Trackback | Comments(0)

ぼくの心を分かって〜絵を描くのは嫌いだ〜3(後半)

「ぼくの心を分かって〜絵を描くのは嫌いだ〜」
これは1年前に電子図書として出版した書籍です。(無料)
全29ページの短編。
10回連載(この記事について1日1〜2回)で投稿します。
今回は6回目。Part3(後半)です。

ただし写真はブログ用に付け加えています。


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「では今からすることを言います」

 そういうと先生は黒板にカードを貼り始めた。

  1 スケッチペンで線をかく練習(教室)

  2 スケッチペンでエノキを画用紙にかく本番(校庭)

  3 絵の具の点けん(教室)

 どうやら今日は、絵の具は点検だけで色は塗らないらしい。先生は、

「いろいろな線を工夫してエノキを描こう

と黒板に、今日のめあてをかいた。そして、チョークを指で挟んで

「今からね、この1本のチョークで、鉄の玉とシャボン玉を描くよ。」

と言って、黒板に大きな丸をゆっくり2つ描いた。先生は、一つは力を入れて太い線の大きな円を描き、もう一つは軽い感じで細い線の大きな円を描いたのだ。

「どっちがシャボン玉か分かる?」

 みんなうなずいて指差した。ぼくだって分かるよ。だってこっちの丸の方が、線は細いじゃん・・・。そうか、細くて弱い線で描くと軽いものが描ける!太くて強い線で描くと重いものが描けるのか!

 そして先生はあるペンを取り出した。

「これはいろいろな線が描ける魔法のペンです!」

みんながどっと笑った。

「うそだあ!」

「いや、うそじゃないよ。先が四角形になっているから、太い線も細い線も描けるんだ。誰でも工夫すればいろいろな線が描けて、絵が生き生きとしてくる魔法のペンさ。」

 びっくりしたのは先生が魔法のペンを全員分用意していたこと。ぼくも紙とペンをもらってすぐに描いてみた。すっきり線とか、ふにゅふにゃ線とか、点々線とか他にもいろいろな線があるよって教えてくれた。ぼくはうれしくなっていろいろな線を描いた。線を描くだけでこんなにおもしろいのだと思った。

「じゃあいよいよ,大切なエノキを描きに行こうね」

 先生の一言ではっと我に返った。そうだ、このあとはエノキを描きに行くのだった。

 画板に画用紙をはさみ、ペンを持って靴に履き替え、運動場に出た。エノキの下に来たら、ぼくは、この前,南田先生と話した事を思い出した。そしてまじまじとエノキを見つめた。

(こんなにエノキをじっくり見た事なかったな。ここにはこんな大きなくぼみがあったのか)

「木には重い感じがするところと軽い感じがするところがありますよ」

「木の根元と枝の先かな」

「外側の線と内側の線も太さを変えて、工夫するとよいです」

「木の体の線と葉っぱの線も変えるといいよね」

 木の下で、先生とぼくたちはそんな会話をした。その後、いっせいに描き始めた。

 5分ぐらいして

「できた!」

ぼくは先生に描いた絵を持っていった。

「おお、根元を太くしてよく描けたね。この枝の先のくるくる回っている線が面白い。ここは葉っぱかな?」

南田先生がほめてくれた!

「はい。そしてここがあのくぼんでるところ」

「おお!よく見ている。たった5分でここまで描けるなんて。でもまだ時間はたっぷりあるよ。もうちょっと見て描いてみないか?」

「先生、もう全部描いちゃったから、ぼくはもういいです」

「そう?もうちょっと葉っぱとか枝とか描くとさらによくなるよ」

 (南田先生も無理言うなあ。もう描けないよ・・)


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 ぼくは先生の言葉を無視して、みんなが描いている周辺を歩き始めた。すると、落ち葉や枯れ枝が目に入った。

「よし、こうしたらどうかな?」

 ぼくは画用紙の上に落ち葉と枝を置いてみた。ペンで描いた線と実物が重なり合って面白かった。自分でケラケラ笑ってしまった。

「リョウタ君、遊んじゃだめじゃない」

 アイちゃんの声が聞こえた。遊んでないよ、とアイちゃんの方を振り向いたとき、ぼくの行為に気付いた先生が走って来た。しまった!怒られる!と思った時、先生がこう言った。

「面白い!ちょっと写真を撮らせて。」

先生はぼくが描いた、というか作った絵を撮影すると

「アイデア賞だね。ただ実物は絵には使えない。あとは色で描こうか。葉っぱや枝を筆で書き加えると、きっと賑やかになるよ。」

 ぼくはほっとした。おこられずにすんだ。でも先生の言葉でなんとなく色塗りもできそうな気がしてきた。

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Point3—「学びたい!」という心をもたせることー

 図画工作には様々な題材があります。絵画も、身近なものから想像上のものまで多様なものを対象にします。そのとき、子どもの中に「描きたい!」という気持ちが湧き起こることが大切です。特に絵を描くことが苦手、嫌いという子どもには、教師の工夫ある指導や支援が必要です。絵の具やパスなどの画材で表現する面白さを体験することによって、子どもは「絵を描くって面白い!」という関心が高まります。そして、描く対象物への思いを膨らませるといった活動によって、「〜を自分なりに描いてみたい」という意欲が沸き起こります。

 子どもに「学びたい!」という気持ちをもたせることは、どの教科の学習でも大切なことです。

****************************(Part4へ続く)


by saibikan | 2018-12-28 05:32 | 学級づくり | Trackback | Comments(0)

ぼくの心を分かって〜絵を描くのは嫌いだ〜3(前半)

「ぼくの心を分かって〜絵を描くのは嫌いだ〜」
これは1年前に電子図書として出版した書籍です。(無料)
全29ページの短編。
10回連載(この記事について1日1〜2回)で投稿します。
今回は5回目。Part3(前半)です。

ただし写真はブログ用に付け加えています。

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3 大切なものをかくって楽しい!


 4年生で初めての図工の時間がやってきた。南田先生はいきなり

「写真を見てください」

 と言ってテレビに注目させた。そこには、みんなが遊んでいる写真。

「あ!ぼくたちだ。楽しかったけいどろ!」

「えー!先生いつの間に!?」

 クラスのみんなが次々と声を発した。ぼくも驚いた。自分も笑顔で走っていた。そして二枚目の写真は、遠くから写したエノキ。木の下に、みんなが集まっている。ぼくたちを包むようにエノキが運動場にどっしりと立ち、真っ青な空をバックに新緑の葉が美しかった。


「エノキだ!」

「そうですね。この木は、学校のー」

「シンボルツリー!」

「そう、そしてなんと60歳ですね」

「え?先生よく知ってるね!」

「この学校に来たばかりなのに!」

「はい。親切に教えてくれた人がいました。ありがとう」

「誰?誰?」 

(ぼくだよ、ぼく。先生と話したのは、このリョウタ様だ

 ぼくはなんだか嬉しくなった。先生は,質問には答えずに続けた。

「このエノキは、みんなが1年生の時から立っているのでしょう?」

「そうだよ。ずっと一緒」

「みんなにとって、エノキはどんな木?木の下はどんな場所?」

 すると学級中が口々に答え始めた。

「けいどろのろうや。かげで遊ぶ」

「どこかへ行く時の、みんなが集まる場所だよね」

「体育で見学する場所です」

「雨が降ったらここで待つの」

「木の根元でお昼寝」

 ぼくはびっくりした。みんなにとっていろいろな思い出の場所であることをあらためて知ったからだ。ぼくにとってエノキは、自分の心を落ち着ける場所だ。いやな事があった時、校舎から見えない方に座って自分の心を落ち着かせる。エノキはそんなぼくをいつも見守ってくれる。(そんなことはみんなには言えない。でも本当は、誰かぼくにとってそんな場所だってこと、誰か一人でも知っていてくれたらいいのにな)


 そう思って南田先生に目をやると

「では次の写真を見てください。同じくエノキの写真です」

 先生がそう言って新たな写真を映し出した。それを見てみんなが目を丸くした。

「折れてる!」

「倒れてる!」

「これは大エノキ。先生が前にいた小学校のシンボルツリーだった。運動場の真ん中に100年間立ち続けて来たんだよ」

「100歳!すげえ!」

「それがどうしてこんなになったの?」

「実はね・・・」

 そのあと南田先生は話してくれた。去年の台風でこの木が倒れてしまったこと。それを知った学校の子どもや先生、お家の人や地域の人たちがみんな悲しんだこと。そしてたくさんの人が、お別れを言いに訪れたり、花を供えたりしに来たこと。

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「この木は愛されていたんだね」

 ぼくの隣に座っているアイちゃんがつぶやいた。先生はその言葉を聞き逃さずに、こう言った。

「そう。地域や学校のみんなから愛されたシンボルツリーだった。」

そして1枚の絵の写真を見せた。緑の葉がいっぱいに膨らんだ、元気に立つ木の絵だった。ふっとどこからともなく声が漏れた。

「大エノキ?倒れた・・・」

「そう。この絵は大エノキが倒れた事を悲しんで、その学校の4年生の女の子が自分で絵に描いたんだよ。もう二度と見る事のない大エノキの姿を思い出しながら」

 先生は、何かを懐かしむような顔をして、話してくれた。そして、

「見ないで描いたの?」

「そうだよ。大好きだった、よく遊んだ100歳のエノキを思い出して、一生懸命描いた。どうだい?この木は」

「色がきれい。でもなんとなく周りの色がさびしそう」

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先生はテレビの電源を切るとぼくたちの目を見つめながら話した。

「私たちの学校にもエノキがあるでしょう。同じシンボルツリー。そのエノキは元気です。その姿を,今のうちにしっかり目に焼き付けておこうね」

「先生、ぼくたちもエノキを描こうよ」

「そのつもりだったんでしょ?だから見せたんでしょ?」

「さすが。みんな分かってるなあ。大事なのは、描くものに対して、自分の何らかの思いがあるかってことだよ。エノキは好き?」

「大好き!早く外に行こうよ」

 みんなは外に行きたがった。ぼくもエノキを見たくなった。でも絵に描くのは・・。


(Part3後半に続く)

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ちなみにこの物語はフィクションですが、過去の実際のできごとをヒントに、エピソードとしていくつも織り込んでいます。エノキが折れた話も、数年前にある学校で起きた話です。そして、絵を描いた女の子の父親から、写真は提供してもらいました。

by saibikan | 2018-12-27 06:01 | 学級づくり | Trackback | Comments(0)

ぼくの心を分かって〜絵を描くのは嫌いだ〜2(後半)

10回連載(この記事について1日1〜2回)で投稿します。
「ぼくの心を分かって〜絵を描くのは嫌いだ〜」
これは1年前に電子図書として出版した書籍です。(無料)
全29ページの短編。今回は4回目。Part2(後半)です。

ただし写真はブログ用に付け加えています。

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「おはよう。もう7時よ」

 お母さんは、部屋のカーテンを開けながらぼくに声をかけた。

「今日は、4年生で初めての図工がある日でしょ。絵の具を忘れちゃだめだよ。去年は何度も先生から連絡を受けたからね」

 言い方はぶっきらぼうだが、結構ぼくの事を分かってくれるよい母親だとぼくは思っている。絵が嫌いな事もよく知っている。

 「図工かあ。それも・・・絵」

 ベッドから降りたぼくは、ランドセルの横に置かれた絵の具を見て、ちょっとお腹が痛くなったが、その事は黙っていた。がんばって朝ご飯を食べた。

 家を出たぼくの頭の中にはいやな夢の事が残っていた。そして歩いているうちに、もっといやだったことを思い出した。それは3年生の時の図工の時間のことだ。


「今日は花の絵をかくぞ」

と、3年生担任の北先生が言った。北先生はどっしりとした体の男の先生。いつもネクタイをして授業をする。図工室でもスーツ姿だ。

 図工室の各テーブルの真ん中には、それぞれ花が入っている花瓶が置いてあった。北先生は、上手な花の絵を何枚か見せて黒板に貼った。「花をよく見て,この絵のように上手に描きなさい」

 そして、先生は教卓の椅子に座ると何かのテストの丸付けを始めた。

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 ぼくは、一生懸命に花を見てサインペンで描いたが、形を十分に表せない。ぼくの描いた絵を見た同じ班のハル君が

「何それ。お化けみたいじゃん」

と言って笑った。ぼくは悔しくなり、描いた線をぐちゃぐちゃにした。紙を裏返してもう一回かこうとしたが、どうかけばいいかわからなかった。すると、ふと、黒板に貼ってある絵が目についた。

「この絵のように、って先生は言った。近くであれを見てかこう」

 そう思って画用紙を持って、黒板に近寄った。すると

「こら!勝手に席を離れるな」

と怒鳴る先生の声が聞こえた。

「この絵のように描けって言ったから、見に来たのに・・・。」

 北先生は、算数は分からないところを一生懸命に教えてくれるけど、図工の時間は、なぜかいつも

「自分で考えて自由に描きなさい」

と言う。この言葉がぼくには理解できなかった。しかもこの日は

「この絵のように」

の言葉で、ますます頭の中が混乱した。でも先生は、そんなぼくのことは分かっていないと思う。ぼくは、席に戻った。そっと隣の人の絵を見て真似をしようと思って描いたが、全然うまくかけない。


「そろそろ色ぬりに入りましょう」

 すわったまま声をかけた先生の指示でみんなが絵の具を準備し始めた。ぼくも線で描くのは途中でやめて絵の具を準備した。そしてがんばって色をぬったけど、思い通りにならなかった。どう見ても目の前の花には見えない。絵は難しいし、面白くない。そう思った。

 授業の最後になって先生は椅子から立ち上がり、みんなが描いた絵を見て回り、その中から何枚か選んで取り上げた。そして

「〜さんや、〜さんの絵がとても上手に描けています。みんなもこのような絵が描けるようになりましょう」

と紹介した。どうやったらあんなに上手に描けるのだろう。   

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 数日後、授業参観前になって、突然全員の絵が教室後ろに張り出された。するとハル君が今度はアキオ君と一緒にぼくの絵を指差して

「やっぱりお化けだ」

と、また笑った。その言葉を聞いたぼくは、自分の絵を破り捨てたくなった。そして絵を描くことがますます嫌いになったのだ。



 気がつくと、ぼくは学校の正門前に立っていた。

(今日は4年生で初めての図工。きっとうまく描けない。また、去年のように友達から馬鹿にされる)

 不安な気持ちでいっぱいだった。しかし、がんばって正門をくぐった。それは南田先生の存在があったからだ。今年の図工の授業は、きっとこれまでと何か違うはずーそんな期待があった。


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Point2ー子どもの発言や行動の裏にある思いや考えー

 私たち教師は、題材のねらいに沿って教材研究を行い、授業に臨みます。しかし、子どもが授業の中で、突拍子もない発言をしたり、予想外の行動をすることがあります。そんな時教師は、「どうしてそういうことを言うのか?なぜきちんとできないのか?」と考えるでしょう。特に学習訓練として「聴く」ことを大切にしたり「学習ルール」を徹底させたい時、学級全体が指示通りに動かないと教師は苛立ちます。しかし、子どもの発言や行動の裏に何があるのか冷静に考えることも大事です。せめて授業後に、子どもの発言や行動から、自分の指示や発問を思い返してみましょう。自分の授業を見直すとともに、子ども理解を深めることになります。


(Part3へ続く) 

by saibikan | 2018-12-26 22:09 | 学級づくり | Trackback | Comments(0)

ぼくの心を分かって〜絵を描くのは嫌いだ〜2(前半)

10回連載(この記事について1日1〜2回)で投稿します。
「ぼくの心を分かって〜絵を描くのは嫌いだ〜」
これは1年前に電子図書として出版した書籍です。(無料)
全29ページの短編。これは3回目。Part2(前半)です。
ただし写真は今回用に付け加えています。

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2 絵は嫌いだ!描きたくない!(前半)

 

 「リョウタ!絵の具をランドセルの横においたからね。明日忘れちゃだめよ。もう4年生なんだから、しっかりしなくちゃ」

 日曜の夜、4年生になって初めての図工の授業がある前の日。いつものように、お母さんの大きな声が後ろから飛んで来た。

「うん・・」

 軽く頷いたが、ぼくの心は憂鬱だった。リビングの壁に貼られた時間割を眺めながらぼくは思わずつぶやいた。

「ああ、いやだな。明日は図工がある。それも絵だって。最悪」

 すると突然、お母さんが後ろからぼくの顔を覗き込んだかと思うと、せかすように言った。

「何、ぶつぶつ言ってるの。もう時間よ。さあ、早く寝なさい」

「うん、おやすみ」

 ぼくはお母さんの目から顔をそらすようにあいさつをすると、立ち上がって自分の部屋に戻った。布団に潜り込んでしばらくは、いやな図工のことが頭から離れなかった。そのうち眠りについたぼくは夢を見た。


「はーい、今日の図工の時間はお絵かきですよー」

 黒板の前で明るく話しているのは、ポニーテールのよく似合う一年生の時に担任してもらった東先生。体は細いけど、エネルギッシュな若い先生だった。声が大きく、早口でしゃべる。

「今日は、すきなものの絵を、大きく描きましょう」

「やった!電車かく!」

 思わずぼくは叫んだ。そんなぼくに、先生は笑顔で、

「あらあ、リョウタ君は電車が好きなんだね。」

「うん。ぼくね、いつもおうちのまどから電車見てるの。赤やら黄色やらいろんな電車が通るよ。ぼくの好きな電車はねー」

「わかった。話は今度聞かせてね。今日はそれを絵に描けばいいのよ」

 ぼくはさっそく、クレヨンを手に取って描こうとした。

「紙はどこ?」

 思わず言葉が出た。先生がまたぼくの方を見て

「まだ紙は配ってないの。それにお話も全部終わってないから、最後まで聞いてね」

 そういった先生は、ぼくに近付いて手からクレヨンを取って箱に戻した。顔は笑っていたけど、目は怒っていたみたい。そしてみんなに向かってこう言った。

「すきなものの絵を紙に一つだけ、大きく描くのよ。わかった?」


 ぼくは東先生が言った事を繰り返した。

(すきなもの・・・紙に・・一つ・・・・なんだったっけ?)

 すると、先生が黒板にチョークで

 「すきなものを ひとつ 大きく」

(そうだった!大きく。よし、はやくかきたいな。先生、早く紙をちょうだい。あ、紙が来た。よしかくぞお。大きく大きく。赤の電車がいいな。じゃあまずは赤いクレヨンだ。楽しいな。次は青で窓をかこう。)

 うれしくなって青クレヨンにも手を伸ばした時—。

「リョウタ君!まだです!」

 怒鳴るような声が、頭のてっぺんあたりで聞こえた。はっとしたぼくが顔を上げると、目のつり上がった先生の顔があった。

「紙がみんなに配り終わるまで待ちなさいっていたでしょう!」

(え?そんな事、聞いてない。言ったのかな。分からなかった。)

「そんなことしているの、あなただけよ!」

 周りをみると、たしかにだれもまだかいてない。みんな、ぼくの顔をじっと見ていた。ぼくは、みんなの目が恐くなって、あやまった。

「ごめんなさい。ごめんなさい」

泣きそうになりながら何度もあやまった。でも先生は、青クレヨンを持ったぼくの右手をぎゅっとつかむと

「許しません!勝手に描いちゃだめでしょう!ほんとにもう!いつも聞いてないんだから!」


 はっと目が覚めた。夢だった。全身汗びっしょりになっている。それは過去にあった実際の出来事の再現だった。ぼくは、好きなものの絵を描くことになってうれしかったことを思い出した。そしてそのとき勝手に描いて先生に怒られた事も。絵を描くのが恐くなった最初の出来事。

 なんでだろう?小学校に入ってから、ぼくは先生の言う事がよくわからなかった。いつも先生に怒られた。話を聞いてないって。勝手に手や体を動かすって。勝手に描くって。そんなつもりはないのに。

 なかなか眠りにつけなかった。うとうとしながらもぐっすり眠れないまま朝を迎えた。

(Part2後半に続く)




by saibikan | 2018-12-26 06:01 | 学級づくり | Trackback | Comments(0)

ぼくの心を分かって〜絵を描くのは嫌いだ〜1

10回連載(この記事について1日1回)で投稿します。
「ぼくの心を分かって〜絵を描くのは嫌いだ〜」
これは1年前に電子図書として出版した書籍です。(無料)
全29ページの短編。今日は2回目。Part1です。
ただし写真は今回用に付け加えています。

*************************

Part1 ぼくのことを分かってほしい


 ぼくはリョウタ。

「ちょっとおっちょこちょいだけど、おしゃべり好きな元気な男の子。電車を眺めるのが大好き。夢中になると、ご飯を食べるのも忘れる」

 お母さんが、ぼくを人に紹介する時そう言うから、多分そうだろう。でも、学校の先生たちの目はちょっと違う。

「落ち着かない。人の話をよく聞いてない。自分勝手に動く。乗り物が好きな男の子。時々すねる」

 ほめてもらうことはほとんどない。それでも先生たちが言うから、当たっているのだろう。


 そんなぼくも4年生になった。新しい学級は4年2組。担任の先生は、今年この学校に転勤してきた南田先生。水色のポロシャツが似合う男の先生だ。若いのか年なのか、ちょっとわからない。ぼくのお父さんと違って、ずいぶんスリムだ。


 南田先生の授業は楽しい。だって、絵とか写真とかカードとかいっぱい準備して見せてくれるから。それに授業の始めに「今日は〜をするよ」と必ず言ってくれて、どんな順番でするかも黒板に貼ることが多いから安心できる。そして、話が短いのがいい。


 新学期が始まって数日後の金曜日、南田先生の声かけで、クラスみんなでいっしょに校庭で「けいどろ」をした。校庭の真ん中にある大木の下に集まって、陣地を決め、捕まえる側・逃げる側のチーム分けをした。ぼくは逃げる側になって一生懸命走った。最初はみんなと遊べてとても楽しかった。ところが、途中でオニであるタケオ君がぼくに

「タッチしたのにリョウタ君が逃げたままだ」

と、言いがかりをつけてきた。ぼくは絶対体をさわられていない。さわられてないと何度言ってもタケオ君が

「絶対にタッチした。うそつき」

と言い張って、もめた。そしていつものように、いらいらしたぼくは

「じゃあ、もうぼくはずっと、ろうやにいる」

と言って、みんなから少し離れたエノキの根元に、座り込んだ。

 しばらくして、南田先生がぼくに近付き腰を屈めて話しかけて来た。

「リョウタ君、けいさつ?どろぼう?」

「・・・・」

「それとも休憩中?」

「休憩中」

「そっか。じゃあぼくもちょっと休憩しよう」

 そう言って先生は、ぼくの横に座った。空を見上げて先生は、

「この木は何の木?」

と、尋ねてきた。ぼくは、

「・・・エノキ」

「よく知っているね。いつからあるの?」

「60年前から」

「へえ、そうなの。そんなに前から。長く立っているんだなあ」

あまりにも驚く先生に、ぼくは心の中で付け加えた。

(去年、教えてもらった。学校ができた頃に植えたんだって)


「ところでリョウタ君はこのエノキの下によく来るの?」

(時々。つまらなくなったらここに座って、みんなが遊んでいるのを眺めている。でもそんなこと教えない)

 ぼくがあまりにも黙っていたからか、しばらくして先生は、

「そうか。言いたくなければ言わなくていいよ」

と笑顔でゆっくり立ち上がった。そしてそっと、ぼくの頭に手をやって

「明日もまた話そうね」

と優しい声をかけてくれた。ぼくは思わず何か言おうとしたが、先生はさっと向きを変えたので、自分の言葉をぐっと呑み込んだ。先生はそのまま、けいどろをしているみんなの方へ走って行った。ちょっと淋しい気分になった。ちょっとだけ。

 

 その日の帰りの会で、来週の時間割が配られた。

「やった!月曜日に図工がある!」

 うれしそうに大きく叫んだのは、隣にいるアイさん。ぼくは、それを聞いて心が重くなった。だって、図工は大の苦手。特に絵を描くことは大嫌いで、絵の授業ではよく胃が痛くなる。これまでの先生たちが、

「ちゃんと聞いてないから上手に描けないでしょう」

「苦手な事から逃げちゃだめだ。上手に描くには努力しなきゃ」

と、ぼくによく言った。でも、

(違う。聞いている。だけど分からない。がんばっても上手に描けない。どんなに一生懸命描いても、みんなが笑う。ぼくは下手なんだ。)

 心の中で、いつもそう叫んでいた。しかし、口に出す事はなかった。そう思う自分が間違っているかもしれないと思っていたからだ。

 南田先生の図工はどうなのかな?きっと楽しいと思う。でも、絵を描くのはぼく。絶対うまく描けない。

「月曜日には、絵の具を持って来てください。」

 南田先生の声は聞こえたけど、ぼくはうつむいたままだった。


  ************************

Point1ー特性ある子どもに対する教師の言葉かけー

 学級の中には、一度に多くの指示を受けると混乱してしまう子どもがいます。だから、シンプルな指示が必要です。また、耳で聞くだけでは意味や状況を理解できない子どももいます。したがって、視覚的な資料は重要です。

 さらに、こだわりが強い子どもは、友達とのもめごとや教師の言葉をきっかけに動かなくなり、がんとして何も言わなくなります。その時の子どもは、自分の気持ちを言葉でうまく言えませんが、心の中ではきっと何かを思っているはずです。そのような場合には、「なぜ言わないの?」と行動を否定するのでなく「言いたくないんだね」と共感的に子どもの行動を認め、その場では無理に聞き出そうとしないことです。それは、子どもと教師の心の距離を縮めることにつながります。そして少しずつ、その後の子どもの行動が変化してきます。

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(Part2へ続く)


by saibikan | 2018-12-25 06:11 | 学級づくり | Trackback | Comments(0)


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